- 他人の存在によって作業の進み方が変わる現象を、社会的促進と呼びます。
- Klatte(2013)の総説では、静かな条件に比べ、騒音のある条件で子どもの聞き取りや聞いた内容の理解が妨げられる研究が整理されています。
- Ward(2017)の成人を対象とした実験では、自分のスマホの置き場所を変えると、近くにあるだけで情報を処理する余力が減るという結果でした。
- 研究からの応用案として、解き方を知っている計算や、すでに習った語句を思い出す反復を試すことが考えられます。
自習室ではかどるのはなぜか|周りの目・静けさ・スマホのQ&A
自習室で計算は進むのに、難しい文章では手が止まるのはなぜでしょうか。家より取り組みやすいと感じる日もあれば、周りの鉛筆の音が気になる日もあります。場所との相性を、本人の集中力だけで説明してよいのかを考えます。研究から考えられるのは、場所の名前よりも、人の存在・音・課題の難しさを分けて相性を確かめることです。入試の配点は別の記事で扱い、ここでは学ぶ場所の使い方に絞ります。
周りに人がいると、勉強は進むのですか?
他人の存在によって作業の進み方が変わる現象を、社会的促進と呼びます。Bond(1983)のメタ分析(複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法)では、ひとりで作業する条件に比べ、人がいる条件では単純な課題の速度が上がり、複雑な課題では速度と正確さが下がる傾向がありました。ただし、他人の存在が説明する結果のばらつきは、典型的な実験で0.3〜3%(原典の表記 .3% to 3%)と小さいものでした。これは成績の上昇率ではなく、実験結果の違いに人の存在がどの程度関わったかを表す数値です。
同じ分析では、単純な課題の正確さの改善も、差が出なかった未公表の研究を含めると確かでなくなる可能性が指摘されています。「周りが勉強しているから自分も進む」という実感を否定する必要はありませんが、速く解けたことと理解が深まったことは分けたいところです。慣れた計算が進んでも、初めて読む資料や難問まで同じように進むとは考えないほうがよいでしょう。
静かなら、どの子も集中しやすいのですか?
Klatte(2013)の総説では、静かな条件に比べ、騒音のある条件で子どもの聞き取りや聞いた内容の理解が妨げられる研究が整理されています。目で見た項目を順番に覚える課題や読みでも、妨げが報告されていました。ただし、報告された影響は概して小さく、音以外の要因を十分に取り除けていない研究もあります。
一方、Massonnié(2022)が小学生に行った実験では、静かな条件と、物語の音声や屋外の音・話し声などを聞く条件を比べても、課題全体の成績は低下しませんでした。ただし、作業記憶(一時的に情報を保ちながら処理する働き)が弱い子は、算数で音の影響を受けやすいという結果でした。全体平均で差がなくても、音のせいで式の途中を見失う子の困りごとまで小さいとは言えません。
スマホを別の場所に置けば解決しますか?
Ward(2017)の成人を対象とした実験では、自分のスマホの置き場所を変えると、近くにあるだけで情報を処理する余力が減るという結果でした。しかし、Ruiz Pardo(2022)が同じ課題と条件を使って確かめ直した研究では、置き場所による課題成績の差を再現できませんでした。Hartanto(2024)が33研究をまとめた分析でも、スマホの存在による認知課題への影響は、効果量(差の大きさを、ばらつきを物差しにして表した数)で d = -0.02 となり、統計的に明確な差は認められませんでした。「置いてあること」と「通知を見て手を止めたり、実際に操作したりすること」は別なので、この結果から学習中のスマホ使用に影響がないとも言えません。
自習室には、どんな課題を持っていけばよいですか?
研究からの応用案として、解き方を知っている計算や、すでに習った語句を思い出す反復を試すことが考えられます。初めての難問や、複数の資料を結びつけて考える課題は、人の存在が負担にならない場所で試す余地があります。次の表は自習室で検証済みの処方ではなく、課題を選ぶための仮の整理です。同じ教材でも、本人が解き方を知っているかどうかで位置づけは変わります。
| 持っていく課題 | 確かめたいこと | 合わないときの見直し |
|---|---|---|
| 慣れた計算の反復 | 速さと正確さが両立するか | 急いで間違えるなら量や場所を変える |
| 習った語句の確認 | 答えを見ずに思い出せるか | 周囲に気を取られるなら席を変える |
| 初めての難問や資料読解 | 考えの途中を保てるか | 落ち着ける場所で再度試す |
「何ページ進んだか」だけを比べると、簡単な課題を多く解いた日のほうがよく見えます。家庭では、似た難しさの課題を選び、家と自習室で終えた内容、間違い方、気になった音を短く残してみてください。疲れ具合や時間帯が違えば結果も変わりうるので、場所だけが原因だとは決めつけません。これは能力を判定する試験ではなく、本人が次の場所や課題を選ぶための記録です。
人目が気になる子に、周囲の速さへ合わせるよう求める必要はありません。途中で止まった理由が「音で式を忘れた」「解き方がわからなかった」では、見直す点も異なります。自習室の使い方を考えるときも、滞在の長さより、その子が考え続けられたかを確認するほうが今回の研究に沿っています。合わない課題を家へ持ち帰ることも、場所の使い分けとして考えられます。
この記事の限界
自習環境の資料は海外の成人や小学生の短い実験課題などで、対象と観察期間がそろっていません。日本の小中学生の継続利用や都立入試への効果を直接示すものではなく、平均差が小さい研究や再現されなかった結果も含みます。
音や人目の負担が続く場合は学校の先生や必要に応じて専門家と環境を相談してください。次に場所を選ぶときは、慣れた反復と初めての難問を分け、そこで取り組めた内容と気になった音を記録して使い分けを考えます。
参考文献
- Bond. Social facilitation: a meta-analysis of 241 studies. Psychological Bulletin. 1983;94(2):265-292.
- Klatte. Does noise affect learning? A short review on noise effects on cognitive performance in children. Frontiers in Psychology. 2013;4:578.
- Massonnié. Individual Differences in Dealing With Classroom Noise Disturbances. Mind, Brain, and Education. 2022;16(3):252-262.
- Ward. Brain Drain: The Mere Presence of One’s Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity. Journal of the Association for Consumer Research. 2017;2(2):140-154.
- Ruiz Pardo. Reexamining the “brain drain” effect: A replication of Ward et al. (2017). Acta Psychologica. 2022;230:103717.
- Hartanto. The effect of mere presence of smartphone on cognitive functions: A four-level meta-analysis. Technology, Mind, and Behavior. 2024;5(1):1-14.
配点表を読み終えたら、次は自分の答案を一文ずつ見直す番です。
- 向く人: 都立推薦の作文や適性検査の作文を、一文ずつ大人に直してもらいたい中学生と小学生
- 向く人: 内申と当日点の仕組みを読んだうえで、残りの月日に何を積むかを親子で決めたい人
- 向かない人: 立川駅の近くで、学校帰りに歩いて寄れる教室を探している人
- 向かない人: 答案を直されるより、大人数の教室で競い合うほうが力の出る子
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よくある質問
周りに人がいると、勉強は進むのですか?
他人の存在によって作業の進み方が変わる現象を、社会的促進と呼びます。Bond(1983)のメタ分析(複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法)では、ひとりで作業する条件に比べ、人がいる条件では単純な課題の速度が上がり、複雑な課題では速度と正確さが下がる傾向がありました。ただし、他人の存在が説明する結果のばらつきは、典型的な実験で0.3〜3%(原典の表記 .3% to 3%)と小さいものでした。これは成績の上昇率ではなく、実験結果の違いに人の存在がどの程度関わったかを表す数値です。
静かなら、どの子も集中しやすいのですか?
Klatte(2013)の総説では、静かな条件に比べ、騒音のある条件で子どもの聞き取りや聞いた内容の理解が妨げられる研究が整理されています。目で見た項目を順番に覚える課題や読みでも、妨げが報告されていました。ただし、報告された影響は概して小さく、音以外の要因を十分に取り除けていない研究もあります。
スマホを別の場所に置けば解決しますか?
Ward(2017)の成人を対象とした実験では、自分のスマホの置き場所を変えると、近くにあるだけで情報を処理する余力が減るという結果でした。しかし、Ruiz Pardo(2022)が同じ課題と条件を使って確かめ直した研究では、置き場所による課題成績の差を再現できませんでした。Hartanto(2024)が33研究をまとめた分析でも、スマホの存在による認知課題への影響は、効果量(差の大きさを、ばらつきを物差しにして表した数)で d = -0.02 となり、統計的に明確な差は認められませんでした。「置いてあること」と「通知を見て手を止めたり、実際に操作したりすること」は別なので、この結果から学習中のスマホ使用に影響がないとも言えません。