- 練習に近い課題への応用と、離れた課題への応用は分けて考えます。
- プログラミングでは転移が報告されていますが、読み書きや学校成績への効果は小さめです。
- そろばんでは長期の計算力向上が見られても、一般的な認知能力の向上とは一致しません。
- チェスなどの遠い転移は、別の活動をする組と比べると根拠が弱くなります。
- 入試への効果を前提に予定を増やさず、本人の楽しさ、具体的な上達、生活の負担を確かめます。
理数系の習い事は適性検査に役立つのか|プログラミング・そろばん・チェスの研究
習い事の発表会で見せた手順や工夫は、初めての問題を解くときにも使えるのでしょうか。送迎の帰り道に、プログラミングで作った作品や、そろばんでできるようになった計算を聞くと、他の学習への広がりも気になるものです。活動の中での上達と、別の課題への転移を分けて考えます。習い事で練習した力の上達は期待できる場合がありますが、それが適性検査の得点に移るという直接の根拠は、ここで扱う研究にはありません。
この違いを考える鍵は、何が上達したかを具体的に分けることです。画面上で命令を組めること、頭の中で計算できること、文章から条件を読み取って説明できることは、同じ「考える力」という言葉でまとめられがちです。しかし、ある場面で伸びた力が別の場面でも使えるかは、別に確かめる必要があります。得意な活動があることと、受験問題のどこが解けるようになったかは、分けて見てよいのです。
立川国際中等教育学校などの適性検査を考える場合も、活動の中で伸びた力と答案で求められる力を分けて見ます。以下では、海外の子どもや学生を対象にした研究を中心に、比べた相手と測った力を読み分けます。習い事の順位をつけるのではなく、入試への期待をどこまで置けるかを整理します。好きな活動を続ける価値も、成績への効果とは別の軸として残します。
要点
- 練習に近い課題への応用と、離れた課題への応用は分けて考えます。
- プログラミングでは転移が報告されていますが、読み書きや学校成績への効果は小さめです。
- そろばんでは長期の計算力向上が見られても、一般的な認知能力の向上とは一致しません。
- チェスなどの遠い転移は、別の活動をする組と比べると根拠が弱くなります。
- 入試への効果を前提に予定を増やさず、本人の楽しさ、具体的な上達、生活の負担を確かめます。
「考える力」を、練習した場面との距離で分ける
習い事で頭を使うことと、その経験が別の課題に役立つことは違います。学習したことが別の課題にも影響する現象を「転移」といいます。練習した内容と似た課題への応用は「近い転移」、内容や状況の離れた課題への応用は「遠い転移」と呼ばれます。どちらに当たるかは、活動の名前だけでなく、実際の練習と測定課題の組み合わせで決まります。
例えば、そろばん式の暗算を練習した後に計算問題が速く解けても、それだけで文章の読み取りまで伸びたとはいえません。チェスで相手の次の手を考える経験にも、盤面の知識やルールが関わります。「先を読む」という表現が共通していても、別の教科で必要な知識まで身についたことにはなりません。習い事での成功を認めつつ、応用先では何を新たに学ぶ必要があるかを見る姿勢が大切です。
研究を読むときにも、「何もしない組」との比較なのか、「別の学習をする組」との比較なのかを確かめます。前者では、教わる時間や新しい活動への期待も結果に含まれる可能性があります。後者なら、ほかの活動を選んだ場合に比べて、その習い事を選ぶ意味があるかに近づけます。家庭の予定には限りがあるため、実際の選択にも関わる違いです。
| 習い事への期待 | 他の課題への広がり | 比較した活動 | 訓練の対象 |
|---|---|---|---|
| プログラミングで思考力が育つ | 計画や反応を抑える課題で改善した例がある | 通常の理数活動 | 海外の初等学年、Arfé(2020) |
| そろばんで広く頭がよくなる | 計算の上達と一般的な認知能力はわかれる | 追加の通常の算数学習など | 海外の児童、Barner(2016) |
| チェスの先読みは学力にも移る | 比較方法を厳しくすると遠い転移は弱い | 別の活動をする対照群など | 海外研究を含む総説、Sala(2017) |
プログラミングは何に移り、何には移りにくいのか
Scherer(2019)は、メタ分析(複数の研究結果をまとめて検討する方法)でプログラミング学習の転移を調べました。全体の効果量は g = 0.49、95% CI [0.37, 0.61] でした。効果量は差の大きさをばらつきに照らして表す値で、95% CIは推定の不確かさを示す信頼区間です。入試の点数や、伸びる子の割合を表す数字ではありません。
同じScherer(2019)では、近い転移が g = 0.75、遠い転移が g = 0.47 と報告されています。創造的に考える課題や数学的技能などへの転移が見られた一方、学校成績と読み書きへの効果は、調べた領域の中で最も小さい側でした。また、学習をしない組と比べた研究は、別の活動をする組と比べた研究より効果が大きく出ていました。
より具体的な授業の例が、Arfé(2020)の初等学年を対象にした研究です。通常のSTEM活動、つまり科学・技術・工学・数学に関わる活動と比べ、小1を対象にしたプログラミング学習で計画課題や反応の抑制に改善が見られました。反応の抑制とは、すぐに出そうになる反応をいったん止める働きです。
この結果から家庭で考えられるのは、作品の完成だけでなく、子どもが手順をどう組み直したかを見ることです。「どこで予想と違ったか」「なぜ命令の順番を変えたか」を聞くと、活動内での変化を確かめられます。ただし、その説明が上手になったことを、別の文章題の理解が伸びた証拠に置き換えないようにします。適性検査への応用を知りたい場合は、実際に文章や資料を扱う場面も別に見る必要があります。
そろばんは計算の上達と広い能力を切り分ける
そろばんの研究では、珠の配置を頭の中に思い浮かべて計算する学習が扱われています。Barner(2016)は、インドの児童を無作為に組に分け、3年間のそろばん式暗算と追加の通常の算数学習を比較しました。そろばん式暗算の組は計算課題で上回りましたが、基礎的な認知能力全般が変わったわけではありません。むしろ、開始時に図形や位置を頭に保つ力の違いが、その後の暗算の学びに関わっていました。
Wang(2019)の中国の小学生の研究でも、5学年間の学習後に、通常の計算や読書などをした組より計算と視空間作業記憶の課題でよい成績が見られました。視空間作業記憶とは、見た形や位置を一時的に頭に保って使う働きです。一方、図形の関係を推理する知能検査では差が見られませんでした。
短い期間の別の研究では結果が異なります。Barner(2018)の海外の小学校低学年を対象にした試験では、通常の学習をする対照群と比べ、年間の学習を通じた計算や認知能力の明確な優位は見られませんでした。年齢の低い子では暗算技能を習得すること自体が難しかったという結果もあります。長期の研究と短期の研究は対象や授業も違うため、続ける年数だけで結果の違いを説明することはできません。
Lu(2023)は、海外の職業学校・大学の学生で、英語学習や認知訓練とそろばんを比較しました。計算などでは利点がありましたが、数や視空間の処理を通常は伴わない一般的能力に、幅広く効果が及んだとはいえません。この対象は中学受験を考える小学生とは異なります。そろばんを計算技能として評価することと、読解や推論まで含めた万能の準備とみなすことの間には、根拠の隔たりがあります。
チェスの先読みが入試に移るとは言い切れない
チェスは先の展開を考えるため、初見の問題にも強くなりそうだと感じられます。しかし、競技の中で意味のある配置を読む力と、教科の課題を解く力が同時に伸びるかは、印象では判断できません。チェスを楽しむこと、チェスに上達すること、広い学力が上がることを別々の問いとして置く必要があります。論理的に見える活動というだけでは、学力への効果を確定できません。
Sala(2017)は、チェス・音楽・作業記憶の訓練から離れた領域への転移を検討しました。小さいものから中程度の効果が報告される一方で、活動のある対照群を置くなど研究方法を厳しくすると、効果が弱くなる傾向を指摘しています。「参加後に伸びた」という結果だけでは、同じ時間に別のことを学んだ場合との差はわかりません。
Sala(2019)は、さらに複数のメタ分析をまとめ、作業記憶の訓練では近い課題への転移があっても、離れた課題への効果は小さいか認められないと報告しました。効果への期待による影響や、効果の出た研究ほど公表されやすい偏りを考慮すると、遠い転移を支持する結果は弱まりました。対象にはチェス以外の訓練も含まれ、国・年齢・期間も一様ではありません。近い課題でよくできるようになることから、一般的な学力向上へ話を広げることへの注意として読めます。
音楽を扱ったSala(2020)でも、子どもの認知能力や学力への効果は、研究方法の質を考慮するとほぼ認められないという結果でした。これはチェスの効果量を示す研究ではなく、活動への期待と比較方法を分けるための補足です。音楽もチェスも、それ自体の技能や楽しみまで否定されたわけではないと読む必要があります。
向かない場合は、子どもの資質より期待と負担を見直す
ここまでの研究から、ある習い事が合わない子を性格だけで判定することはできません。始めたときにうまくできないことも、適性検査に向いていない証拠にはなりません。活動には道具の使い方や固有の約束事があり、そこを覚える段階と、自由に使って考える段階があります。保護者が期待する成果と、本人が今取り組んでいる課題が離れていないかを確かめます。
特に慎重に考えたいのは、入試のためだけに新しい活動を足す場合です。取り上げた研究には、習い事を増やすと適性検査の成績が下がると直接示したものもありません。ただ、通う準備や練習が増えた結果、必要な学習に取り組む余裕がなくなることは、家庭の予定として確認できます。ここでいう逆効果の条件は、習い事自体の害という研究結果ではなく、目的に対して負担の方が大きくなっていないかという実務上の問いです。
例えば、暗算は楽しく続けているのに、文章を読む時間が確保できなくなっているなら、暗算の価値と受験準備の不足を別に扱います。「役立つはずだから」と練習を増やしても、まだ確かめられていない転移を期待することになります。逆に、成績との結びつきが見えないという理由だけで、本人が大切にする活動を切り捨てる必要もありません。減らすものを決める前に、今の困りごとを具体的にします。
本人が毎回強く嫌がる、失敗を恐れて試せなくなる、帰宅後の負担を訴える場合は、内容や進度、予定との釣り合いを見直す材料にできます。これらは習い事の種類から一律に予測できることではなく、日々の様子として受け止める事柄です。点数への期待をいったん外すと、「続けたいが課題は減らしたい」という本人の希望が見える場合もあります。興味の継続と受験準備を、同じ物差しだけで決めないことが大切です。
家庭では、活動内の上達と別の課題を並べて確かめる
家庭での確認は、研究の再現実験ではありません。成長や学校の授業、問題への慣れなどが重なるので、前より解けたとしても習い事だけのおかげとは断定できません。それでも、漠然とした期待を具体的な観察に変えることはできます。以下は効果が実証された指導法の処方ではなく、続け方を話し合うための確認手順です。
最初に、本人が続けたい理由と、保護者が期待する変化を書き分けます。「ゲームを作りたい」と「資料を読んで考えを説明してほしい」は、どちらも大事にできますが、同じ目標ではありません。次に、活動の中で以前よりできるようになったことを、作品や計算の跡、対局の振り返りなどで確かめます。完成品だけを見るより、迷ったところや修正した理由にも目を向けます。
そのうえで、学校の課題や適性検査に向けた学習で、今どこに困っているかを別に記録します。条件を読み落とすのか、計算で止まるのか、答えの理由を言葉にできないのかで、確かめたい内容は変わります。題材や難しさが大きく違う問題を比べて、点数の上下だけで結論を出さないようにします。見直す時期を先に決め、本人と一緒に次の項目を確認すると、話し合いの材料がそろいます。
- 本人は何を楽しみ、次に何をできるようになりたいと思っているか。
- 活動の中で、以前と違う手順や説明が見られるか。
- 別の学習課題でも変化が見えるか、それとも活動内に限られるか。
- 移動や練習を含めた予定に、無理や強い抵抗が出ていないか。
- 続ける、量を調整する、いったん休む場合に、それぞれ何を大切にするか。
変化が見えなければ、本人の努力不足という結論にしないことが大切です。そもそも遠い転移は、研究でも広く期待できるとは限らないからです。楽しさはあるが入試への変化はわからない、という状態も、そのまま記録してかまいません。習い事の価値と受験上の課題を分けた方が、必要な学習を具体的に相談しやすくなります。
よくある質問
適性検査のためなら、どの習い事を選ぶとよいですか
ここで扱った研究から、適性検査への効果で習い事の順位をつけることはできません。活動ごとに比較相手と測った課題が異なるためです。まず、本人が学びたい内容と、現在の学習で困っている点を分けて整理します。入試だけを目的に選ぶなら、習い事の名称より、期待する力を実際に扱っているかを確かめる必要があります。
計算が速くなったら、適性検査にも役立ったといえますか
計算が必要な場面で、以前より処理しやすくなったとは考えられます。ただし、文章を読んで式を選ぶことや、根拠を説明することまで上達したとは、それだけではいえません。Barner(2016)の研究も、計算の改善と基礎的な認知能力の変化を分けて示しています。実際の課題のどこで助けになり、どこでは困りごとが残るかを見れば、計算の成果を認めながら次の学習を考えられます。
入試への効果が不明なら、好きでもやめるべきですか
研究が入試への転移を確認していないことは、活動に価値がないという意味ではありません。作品を作る楽しさや対局を続けたい気持ちは、試験の点数とは別の継続理由になります。一方で、好きな活動でも今の予定に収まらない場合は、量や時期を調整する余地があります。受験に役立つかだけで結論を急がず、本人が何を残したいかと、必要な学習時間をどう確保するかを一緒に話します。
この記事の限界
理数系活動の証拠は海外の学校実験と研究の統合が中心で、欧米に加えてインド・中国の児童や年齢の高い学生も含まれます。短期の計画課題と長期の計算成績では測る力が異なり、日本の習い事や適性検査への効果を直接検証した研究はなく、科学活動全般も網羅していません。
読み取りや計算の困難が続く場合は実際の答案をもとに学校の先生へ、必要に応じて学習支援の専門家へ相談してください。次の送迎の帰りには、活動でできたことと学校の課題で困ることを本人に聞き、楽しさも含めて続け方を話し合う材料にします。
参考文献
- Schererほか. The cognitive benefits of learning computer programming: A meta-analysis of transfer effects. Journal of Educational Psychology. 2019;111(5):764-792.
- Arféほか. The effects of coding on children’s planning and inhibition skills. Computers & Education. 2020;148:103807.
- Wangほか. Training on Abacus-Based Mental Calculation Enhances Visuospatial Working Memory in Children. Journal of Neuroscience. 2019;39(33):6439-6448.
- Barnerほか. Learning Mathematics in a Visuospatial Format: A Randomized, Controlled Trial of Mental Abacus Instruction. Child Development. 2016;87(4):1146-1158.
- Barnerほか. A One-Year Classroom-Randomized Trial of Mental Abacus Instruction for First- and Second-Grade Students. Journal of Numerical Cognition. 2018;3(3):540-558.
- Luほか. Transfer effects of abacus training on cognition. Current Psychology. 2023;42(8):6271-6286.
- Salaほか. Does Far Transfer Exist? Negative Evidence From Chess, Music, and Working Memory Training. Current Directions in Psychological Science. 2017;26(6):515-520.
- Salaほか. Cognitive and academic benefits of music training with children: A multilevel meta-analysis. Memory & Cognition. 2020;48(8):1429-1441.
- Salaほか. Near and Far Transfer in Cognitive Training: A Second-Order Meta-Analysis. Collabra: Psychology. 2019;5(1).
配点表を読み終えたら、次は自分の答案を一文ずつ見直す番です。
- 向く人: 都立推薦の作文や適性検査の作文を、一文ずつ大人に直してもらいたい中学生と小学生
- 向く人: 内申と当日点の仕組みを読んだうえで、残りの月日に何を積むかを親子で決めたい人
- 向かない人: 立川駅の近くで、学校帰りに歩いて寄れる教室を探している人
- 向かない人: 答案を直されるより、大人数の教室で競い合うほうが力の出る子
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よくある質問
適性検査のためなら、どの習い事を選ぶとよいですか
ここで扱った研究から、適性検査への効果で習い事の順位をつけることはできません。活動ごとに比較相手と測った課題が異なるためです。まず、本人が学びたい内容と、現在の学習で困っている点を分けて整理します。入試だけを目的に選ぶなら、習い事の名称より、期待する力を実際に扱っているかを確かめる必要があります。
計算が速くなったら、適性検査にも役立ったといえますか
計算が必要な場面で、以前より処理しやすくなったとは考えられます。ただし、文章を読んで式を選ぶことや、根拠を説明することまで上達したとは、それだけではいえません。Barner(2016)の研究も、計算の改善と基礎的な認知能力の変化を分けて示しています。実際の課題のどこで助けになり、どこでは困りごとが残るかを見れば、計算の成果を認めながら次の学習を考えられます。
入試への効果が不明なら、好きでもやめるべきですか
研究が入試への転移を確認していないことは、活動に価値がないという意味ではありません。作品を作る楽しさや対局を続けたい気持ちは、試験の点数とは別の継続理由になります。一方で、好きな活動でも今の予定に収まらない場合は、量や時期を調整する余地があります。受験に役立つかだけで結論を急がず、本人が何を残したいかと、必要な学習時間をどう確保するかを一緒に話します。